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福岡高等裁判所 昭和44年(う)70号 判決 1969年10月17日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人内田松太、同山本彦助提出の控訴趣意書記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断はつぎに示すとおりである。

第一点事実誤認の主張について。

(1)  原判決判示(一)の事実について。

所論は、原判決判示(一)の事実は、自由民主党福岡県鞍手郡支部代議員会が千田屋旅館において開かれた席上、同会に出席した同党役員又は指導員に対し、これまでの慣例により酒食の提供がなされたにすぎないものであるが、その席へ突如まだ立候補の決意をしていない野見山清造が同党福岡県支部連合会代表の資格で来たにすぎないのであつて、当日の会が選挙目的がないこと、酒食の提供は政党の政治活動の範囲内の程度であること、仮に野見山がその席上選挙に関し自己に投票を依頼する旨の挨拶をした事実があつたとしても右酒食の提供とは何等関係がないこと、憲法前文の趣旨に鑑みるときは右の程度の党活動は処罰すべきではないと考えられるので、原判決はこの点につき判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認がある、というのである。

よつて検討するに、原判決挙示の証拠(但し、原審相被告人塚崎繁雄の司法巡査に対する供述調書を除く。)被告人の司法警察員に対する昭年三八年一二月八日付供述調書及び当審において取調べた証人柳田桃太郎の証言によると、被告人は自由民主党鞍手郡支部事務局長として、同支部長であつた原審相被告人塚崎繁雄と共に、昭和三八年一一月二一日施行の衆議院議員総選挙に立候補して当選した同党福岡県支部連合会常任顧問野見山清造を支持していたものであるところ、右衆議院議員選挙候補者には同党鞍手郡支部としては福岡県二区から同党員森武雄を推薦することになつていたが野見山清造を推薦する動きもあつてその調整をはかる必要があつたため、昭和三八年一〇月二日塚崎繁雄方に被告人の外自由民主党鞍手郡飯塚市支部代表数名が集つて右両名中いずれを推薦すべきかを論議した結果、野見山を推薦することにして同人が自由民主党の公認候補に決まり、塚崎と被告人はその旨の経過報告とその諒承を求める件及び自由民主党福岡県支部連合会再建に伴う同郡支部役員改選の件をはかるため郡支部の世話人会と称する会合を一〇月一〇日開催し参加者に弁当一個(一五〇円相当分)酒二合(九三円相当)交通費一〇〇円を提供することを話しあつた上、一〇月一〇日原判示(一)記載の各有権者を含めて八三名位を千田屋旅館に集め、右会合の席上塚崎が森武雄を紹介した後同人において自分は立候補を辞退し代つて野見山清造が立候補することになつたので私同様よろしく頼むという趣旨の挨拶をなし、次いで塚崎は森が立候補を辞退し野見山が立候補するに至つた経過及び野見山の人物について説明し、直方鞍手地区では野見山を推薦するのでよろしく協力方を依頼する旨の発言をし、更に野見山清造が出席して一同に対し、森に代つて立候補することになつたのでよろしくお願いしますと挨拶をなし、その後参集した全員に対して弁当と酒を配つて接待した事実及び右参会者は自由民主党鞍手支部の役員や党員だけでなく単なる同党の支持者や無関係者が相当含まれていた事実が認められる。かかる事実に徴すれば、被告人等は野見山候補の選挙運動に関して各出席者殊に原判示のような単なる同党支持者や無関係者に対し酒食を提供したものといわねばならない。所論は、本件酒食の提供は政党の政治活動の範囲内に属し慣例による会食であるというが、右会合には党役員や党員の外に多数の単なる同党支持者や無関係者が出席し、これらの者に対して野見山候補への支持、投票を依頼した上酒食を提供したものであるから、政党の政治活動とは目し難く公職選挙法第二四三条第一号、第一三九条の違反行為に該当するものというべく、論旨は理由がない。

(2)  原判示第(二)の事実について。

所論は、西野オミ、花田錦枝が被告人の意思と関係なく戸別訪問をしたものであつて、被告人は同人等と共謀の事実もなくまた行為の内容も知らなかつたものであるのに、被告人を共犯者と認定した原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認がある、というのである。

しかし原判決挙示の証拠によれば、昭和三八年一〇月二五日頃塚崎方に被告人や自由民主党鞍手町婦人部長である西野オミ等が集つて野見山が立候補するからその選挙運動をする旨の話をした後、被告人は西野から鞍手地区は不便であるといわれて自動車を都合することを承諾し原判示の日被告人は自動車に乗つていつて西野と花田を同乗させ判示各家(但し後述の点を除く)をまわり、右両名が各戸を訪問して野見山のため投票の依頼をなし、被告人はその間西野等の近くや或いは自動車の中にあつて両名の右投票依頼を諒知し容認して行動を共にしたことが認められるから、被告人は右両名と共謀して原判示戸別訪問をしたものといわねばならない。尤も、原判示の福井キワ子方を訪問したとの点については同家に立ち入つて投票を依頼したことの証拠が十分でないのでこの訴因は犯罪の証明がないことに帰するけれども、これは一罪中の一訴因にすぎないから本件犯罪の成否に何等の影響を及ぼすものではない。論旨は理由がない。

第二点量刑不当について。

所論は、判示(一)の事実については被告人は支部役員が決定したことを事務員として執行したにすぎないこと、被告人は町会議員であるが本件は被告人自身の町会議員選挙に際しての違反ではないこと、本件公判審理は長期に亘つているところ、本来ならば当然昭和四三年一一月一日の復権令、法務省令第四六号により公民権停止は復権することができたのに、僅かの期間の経過によりこの恩赦に浴しえなかつたこと等を考慮すると、原判決の公民権停止の言渡は酷にすぎるから破棄さるべきものである、というのである。

よつて検討するに、本件は被告人が町会議員としてその町会選挙のためにしたものでないことは勿論であるけれども、前記認定のように被告人は自由民主党鞍手郡支部事務局長として本件各違反行為に参画して、単なる事務の執行のみをなしたものではないことが明らかであり、更に記録によると被告人は原判示(一)(二)の各事実について否認し、検察官請求の証拠書類も不同意のものが多く、そのため多数回の公判期日を累ねて長期間を費すにいたつたことが認められ、更に本件犯行の態様その他記録に現われた諸般の事情を考察すれば、原判決の被告人に対する量刑は相当であり、所論のように重きに過ぎるものとは認めがたい。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条によつて本件控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

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